これ僕.com:行動分析学マニアがおくる行動戦略

意図と行動のギャップから生じる「不自由さ」への挑戦。果たして僕たちに自由はあるのか?

読書履歴:あたらしい戦略の教科書

あたらしい戦略の教科書
酒井 穣
ディスカヴァー・トゥエンティワン
売り上げランキング: 882
おすすめ度の平均: 4.5
4 顧客(読者)の視点を重視したこれまでにない戦略解説書
4 簡単に全体像がわかる
5 戦略+インタビューノウハウ 1冊で2度オイシイ
4 戦略の教科書
5 「現場が実行できる戦略には何が必要なのか」がテーマ

もし、未来が完璧に予測できるならば、それに従って行動すればいい。そこに戦略は不要だ。しかし、未来は不確定要素に支配され、予測しきれるものではない。そんな環境下において如何に成果を勝ち取っていくか。それが戦略だ。
戦略の構築・実行は、以下の4ステップをとるようだ。

  1. 可能な限り正確な未来予測のために、現状を把握する
  2. 目的地を設定する
  3. 目的地へのルートを選定する
  4. 戦略の実行を成功させる

本書には、その4つのステップに沿って、極めて現実的な戦略立案・実行のノウハウが示されている。しかも、これは実務をこなす人にとっての戦略だ。


未来を完璧に予測することはできないが、全くできないわけでもない。そこでポイントになるのが、情報の収集力と分析力である。その力の格差が、未来予測の精度の格差になり、それがさらに戦略難易度の格差へと繋がる。まずここで、競合との差が生まれる。
また、情報については

  • ドライ情報
  • ウェット情報

の2種類があるとされている。ドライ情報はWeb検索などで入手できるようなもの。ウェット情報は、人が独自に持っているあまりオープンにしないもの。後者の方が貴重だが、正確性は落ちる。ドライ情報と自分のもつウェット情報を利用して、如何に他のウェット情報を入手できるかがポイント。


目的地を設定するのは、そこに関わる人たちの気持ちをまとめ、モチベーションを高めるため。人がやる気を出すのは、ちょっと頑張れば届きそうな高めの目標に挑んでいるときだ。



現在地の把握と目的地の設定が終わったら、ルートの選定になる。ここがまさに戦略の立案と呼べるところなのだと思う。
本書によれば、

「戦略という旗」は、フィードバックやアイデアが集まる中心軸

とのこと。戦略という1つの土台、場があることで、そこに携わる人たちにとって情報を吐き出す場所が得られるのだということだろう。昨今、情報共有の重要さをあちこちで聞くのだが、そのためにはまず戦略が必要なのかもしれない。
また、そういう前提であるから、戦略そのものも当然シェアされなければならない。密室で決めるのは、言語同断というわけだ。

自分が巻き込まれる重大な決定には、誰もが「当然自分にも参加する権利がある」と考えています

まさしく、である。ブルー・オーシャン戦略にも書いてあったような気がするが、人がある決定にどれだけ納得するかは、その決定の善し悪しよりも、決定のプロセスにどれだけ参加できたかによる部分が大きい。


最後に、戦略の実行についてであるが、これは「情熱の伝染」と「やさしい空気」が成功のカギになるようだ。
情熱については、次の言葉があまりにも真実をついていて秀逸だった。

人間の正義感とは、「自らが十分に世間から認められていない」という「不遇感」を埋め合わせるために発露することが多々ある

怖い怖い。言われて分かったけど、まさにその通りだ。批判対象の存在する、さも正しそうな言葉というのは、単なる不遇感(この単語がまたピッタリとくる)の裏返しであることが本当に多い。情熱を伝えるのは言葉ではなく、行動であるべきだ。
「やさしい空気」が必要なのは、人が安心して戦略の達成に向き合える状態を作るためだと思う。高い目標だからこそ、積極的に行動することそれ自体に不安を持たせてはいけないのだろう。常に不安を感じてしまうような組織では、行動は硬直し、やる気を持って高い成果を目指していくことなどできないのだ。戦略目標はどこかに置き去りにされ、いつの間にか「生き残り」や「ミスをしないこと」が各人の目標になってしまう。こうなってはいけない。


ああ、他にも書きたいことがあるのだけど、この辺にしておこうと思う。『はじめての課長の教科書』も素晴らしかったが、本書もそれに負けないくらい素晴らしい、極めて「現実的」な本だと思う。