金剛出版
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行動分析学ではなく行動療法の本ですが、元となる理論は行動分析学も含まれるかと思いますので読んでみました…が、これはスゴ本と言わざるを得ない。行動療法のベテランである著者の知見が、分かりやすい言葉で綴られていて目からウロコが何枚も剥がれ落ちました。
僕たちは日々を過ごしながら、色々と悩むわけです。ときにその悩みが深くなり、所謂”心が病んだ状態”に陥ったり、あるいは行動が硬直的になって状況を変える力が極めて弱くなった結果、歪なほど低い評価を自己に与えてしまったりします。
そういった時によく使われる表現は、「私の性格が〜」「僕は〜な人間なので」等でしょうか。行動分析学では個人攻撃の罠などと言ったりしますが、自分に対して抽象的な評価を与えることで現状を説明しようとします。
著者の元に治療にやってくるクライエントは、そういった状態に自分を置き、深く悩んでいることが多いようです。
でも、こういった傾向は割と健常に日常を過ごしている僕らにだって言えることです。何かにつけ、自分や他人に抽象的な評価を与え、それで説明できたような気になってしまいます。分かったような気になってしまいます。
「行動をとる」ことが大切だ、と本書の中に繰り返し出てきます。僕たちは、たくさんの刺激と反応の連鎖の中に生きています。その中で様々な感情を得たり、行動を行ったりします。それがまた他者への刺激となり、その人の行動や感情を促します。僕たちの体験は、刺激と反応の連鎖の中にあるんですね。
行動をとるとは、そういった僕たちの日常の中から刺激と反応を具体的に取り出し、それがどのような体験をもたらしているかを理解していくことです。抽象的な評価で何かを説明しようとするのではなく、具体的に「行動をとる」ことができてこそ、クライエントの体験や悩みというものを理解する手がかりを得ることができます。
行動をとるためには、クライエントとの対話を通して理解を深めていくのですが、本書で説明されているその過程がまた面白い。
なんと、クローズドクエスチョンが大切だと言うのです。コーチングではオープンクエスチョンを使うことが多いのですが、その逆だというので「おお?」と思うわけです。
著者はクライエントの話を聞きながら、クライエントの現状を具体的にイメージしていくのだそうです。そしてそれを質問にして、あっているか確認していく。現状を説明する負担を、クライエントのみに負わせないようにしているのです。
いままでそんな視点がなかったので、なかなか衝撃的でした。少なくとも「行動をとる」ための対話は、片方が一方的に説明するのではなく、互いがそれぞれに努力しながら理解を深めていく作業なのだな、と。
そうやって行動をとっていくと、クライエントにも「できていること」があると分かってきます。そのできていることを掬いあげ、光を当てていきます。
例えば、クライエントの望みが、現状からすると途方もないようなものだったとしても、「そうなるといい」というスタンスで関わっていくこと。クライエントのできていることを、その望みに沿った方向に活用してあげる。
そんな関わり方が示されていて、これは素敵だな〜とこっそり感動。
かと思うと、次のような表現もあります。行動療法とは単なる技術であり、その中心に特定の意味や価値観は存在しない、と。色が無いんですよね。だからこそ、著者にとっては使い勝手が良かったようです。
また技術であるということは、その技術を磨くことが重要です。技術があるからこそ、役に立つことができる、と。これは本当にその通り。誰かの役に立とうと思うのなら、己のできることを日々磨くことはとても大切です。
いやー、いい本を読んだ。
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