これ僕.com:行動分析学マニアがおくる行動戦略

意図と行動のギャップから生じる「不自由さ」への挑戦。果たして僕たちに自由はあるのか?

なぜ、あのWebサービスはみんなに使われるのか?

まず前提として、人が行動するとき、背後には満たそうとする7つの欲求がある。

  1. 確実感
  2. 変化(不確実感)
  3. 重要感
  4. つながり
  5. 成長
  6. 貢献

詳しくは、人間の行動を支配する7つの欲求 - 今日とは違う明日へ。


Webサービスを使うことも、結局は行動なので、7つの欲求のメカニズムからは逃れられない。
このエントリでは、以下の2点について考えてみたいと思う。

  1. いま流行っているWebサービスが満たしてくれている欲求は何か
  2. 使いたいと思われ、使い続けてもらえるのは何故か

ちょっと長くなりそうな気はするが、興味があればお付き合いいただきたく。

いま流行っているWebサービスが満たしてくれている欲求は何か

まずは具体例を示した方がわかりやすいと思ったので。

ソーシャル・ネットワーキング サービス [mixi(ミクシィ)]

あまり解説の必要もないWebサービスかとは思うが、一応、特徴を挙げる。

  • SNS(プロフィール、日記、テーマに沿ったコミュニティ作成など)
  • マイミクシィという繋がりを持つことで、自分用のコミュニティを形成できる
  • 足跡機能などで、他ユーザーのアクセスを把握できる*1
  • 出会い


mixiを使うことで得られる欲求は何だろうか。

  • 確実感
    • 日記公開範囲をマイミクシィのみに限定できたりと、安心できる仲間内だけでコミュニケーションできる
  • 変化
    • 知らなかった人との出会い
  • 重要感
    • マイミクシィの数が多くなると、重要感を得られる(人によるが)。あるいは、コメントなどからも得られるか。
  • つながり
  • 貢献
    • コミュニティを立ち上げて運営していくなら、貢献への欲求を満たすことができるだろう

ざっとこんなところだろうか。4つ以上の欲求を満たすと中毒性がでるそうなので、1000万人超のユーザーを獲得できたのも納得できる。


一方で、mixiを離れていった人については、

  • 確実感の喪失
    • 足跡機能によって安心して人のページにアクセスできない、アクセスしたらコメントしろと強要される
  • 変化の喪失
    • 飽きた
  • つながりの喪失

などが当てはまるだろうか。

はてなブックマーク

はてなユーザーなら多くの人は知っているだろうが、国内No.1のSBM(ソーシャルブックマークサービス)だ。

  • ブックマーク(お気に入り)のオンライン版
  • Webページに対して、ブックマークした人がコメントを残せる
  • ブックマーク数に応じたランキング表示(注目エントリーや人気エントリーなど)
  • オープン性故に、ブックマークツールというよりはコミュニケーションツールとしての性質が強い


はてなブックマークを支持している人が満たされる欲求は、何だろうか。

  • 確実感
    • 注目エントリーや人気エントリーは、人気のあった記事であることを保証してくれている
  • 変化
    • 注目エントリーなどで、新たな情報をピックアップしてくれるし、ブックマークコメントで多様な意見を得られる
  • 重要感
    • ページ作成者にとっては、ポジティブな被ブックマークが重要感を満たしてくれる
  • つながり
    • ブックマークコメントは短いが、緩やかなコミュニケーション形成に寄与している
  • 貢献
    • ページ作成者にとっては、ポジティブな被ブックマークによって、読者に貢献している感覚が得られる


一方、ページ作成者の中にはブックマークされることを嫌う人たちがいる。それは、

  • 確実感の喪失
    • 被リンクされることにより、安全な空間が乱される
  • 重要感の喪失
    • ネガティブコメントにより、自身の重要感が傷つけられる

といったことが原因だろうか。

niconico

動画を共有し、再生にあわせてコメントを楽しむサービス。

  • 動画に対して匿名でコメントを残すことができ、再生にあわせてコメントが適度なスピード感で流れていく
  • タグを編集して楽しむ文化
  • 生放送企画などで特にネット上で人気のある有名人が出演することも


ニコニコ動画が使われ続けるのは何故だろうか。

  • 変化
    • 常に新しい動画がUPされたり、よく見る動画でも予想外のタグ編集や職人コメントなどによって、変化の欲求を満たすことができる。
  • 重要感
    • 動画のUP主、コメント職人は、コメントやタグによって賞賛されるので、重要感を満たすことができる。
  • つながり
    • 自分のお気に入りの動画がそこにあり、同じようにその動画を楽しんでいる人たちがいるので、利用者同士はゆるいつながりを感じることができる。弾幕コメントなどは、よりつながりを感じられるものかもしれない。
    • 利用者は、動画のUP主や動画内へのキャラクターに対して強い愛着を示すことで、愛するという欲求を若干ながら満たしている。
  • 貢献
    • 動画作成者やコメント職人は、賞賛されることで貢献の欲求を満たすことができる。
    • また、ただ閲覧するだけの人も、お気に入り動画の再生数を伸ばしたり、積極的にコメントすることで貢献欲求を満たしているかもしれない。


一方で、ニコニコ動画から去っていく人は

  • 確実感の喪失
    • 荒しコメント、中傷コメントに嫌気がさし、動画によって生み出された場から安心感が失われる。特にUP主にとって厳しいものかもしれない。
  • 変化の喪失
    • UPされる動画がワンパターンになり、真新しさを感じられる、飽きてしまう。
  • 愛の喪失
    • 動画のUP主がニコニコ動画を去ることによって、愛着を示す対象を失ってしまう。

といったあたりが原因だろうか。

使いたいと思われ、使い続けてもらえるのは何故か

人がWebサービスを使いたいと思うのは、そこに期待があるからだ。期待とは、現状から何かが変わるのではないかという期待だ。
つまり、変化の欲求によって、Webサービスは使いたいと思われ、そして使われ始める。
一方、使われ続けるには何が必要だろうか。
使うことによって満たされている強い欲求は、変わらず満たし続ける必要があるだろう。例えば、mixiがいきなりオープンなブログのようになっては、確実感が失われて、既存のユーザーは離れていくのではなかろうか。
また、Webサービス自体をアップデートし続けることで変化の欲求を満たさなければ、利用者は飽きていってしまうだろう。


Webサービスを7つの欲求という観点から捉えることで、人気がある理由を、より具体的かつ深く知ることができる。
面白いや便利、シンプルといった表現だけでは見えてこない、Webサービスが使われる理由が見えてくる。
と同時に、何故使われないのか、何故人気が出ないのかもまた、分かるように思える。


ある文章を引用したい。

ベンチャーにおける利益は1つ目のカッコにユーザ数、2つ目のカッコにユーザーの生活改善度を入れたかけ算式で計算できる。[2] 2つ目のポイントはあなたが自分で思い通りにできることだ。だから、1つ目のポイントの成長率もこの2つ目のポイントをどれだけうまくやれるかにかかっている。科学と同様、難しいのは質問に答えることではなく質問することだ。つまりユーザが求めている新しい何かを見つけ出すことだ。

この答えを見つけるために、7つの欲求は手がかりになるのではなかろうか。

追記

id:ululunさんにブックマークコメントを頂いた。

ululun 何かに当てはめて分析する事は出来ても、分析した結果から何かを作り出す事は出来ないんじゃね?

仰るとおり、分析した結果から何かを作り出すことはできません。
この手のものは思考の補助なので、次のような使い方だと上手く嵌るんじゃないかと考えています。

  • 思いついたアイデアの有効性を検証する
  • 既存アプリの改善にあたり、「強化するもの・弱化するもの・追加するもの・削除するもの」を検討する際の補助として

*1:削除できるようになったらしいけど